ぬかるみ小路に逸れる

文章の溜まり場所として使っていこうと思います(超不定期)

おっさん異文カルチャー

おっさん異文カルチャー

 

 

「おっさんが世界を救ったっていいだろうが!」と一人のおっさんが叫ぶとおっさんたちはより派手やかでキラキラした衣装のセーラーおっさんへと変身する。そして侵略してきた長い触手のいっぱい生えたスライムみたいなエイリアンに向かってセーラーおっさんは手に持っているスマホじゃない携帯電話からビームを放つ。
「これで終わりだ!」決めゼリフとともに放たれた閃光がエイリアンを貫いたが光の中にその影はまだ残っていた。けれどもう敵意は感じられない、エイリアンは頭を触手でさすって涙を浮かべながら空に返っていった。「この星の平和は私たちが守る!」セーラーおっさんの眼鏡がキラリと光った。
「僕は初めてこの星に来たのですが、正直度肝を抜かれましたよ」と中津くんは言う。「そうか!君のいた地球ではまだ」タナカが言いかけると
「はい・・・地球のおっさんはセーラー服なんて着てませんから・・・」
「そうだよね・・・それは何とも異文化交流だったね」
タナカと中津くんは居酒屋のカウンター席で二人肩を並べながら甘くないサイダーを飲んで、黒くてよくわからないが、地球でいうがんもどきに似たような味の染みて美味しい煮物をフォークでつついていた。店内はクラブのように色んな光が妖しく舞うがBGMは地球の歌謡曲だった、それもちょっと古臭くてだいたい2000年代くらいに流行った感じのだ。タナカはセーラーおっさん戦士の一人で中津くんの赴任してきた会社の上司にあたる。中津くんに地球からこの星への異動命令が出されたのは1ヶ月くらい前の事で本当に突然だった。
地球の上司からは何の前情報も知らされてなかったから中津くんはこの星に来て改めて地球とは違う常識に驚いたのだ。まずおっさんと呼ばれる所謂サラリーマンたちが皆セーラー服を着ていることだ。セーラー服はかつての海兵隊の着ていたのが元になったから男が着ていても違和はない、わけではなかった。地球で言えばそれは主に女学生が着るようなスカート、そして間違いなく危険人物として通報されるだろう。だけどこの星ではそれはネクタイとスーツのような正装であるらしかった。
「中津くんもだいぶ様になってきたように思うがなあ・・・まだ慣れないかい?」
「ええ・・・さすがに・・・」この星でサラリーマンということはつまりセーラー服を着る事になるので中津くんも例に漏れずという訳だがさすがにまだ慣れない。タナカは「だけど君もこれからセーラーおっさんとして敵と戦う日が来るかもしれないんだぞ」と言う。なぜかこの星ではおっさんたちはある日突然選ばれたセーラーおっさん戦士として突如星に侵略してくる外敵エイリアンと戦わなければならない使命があるのだった。
「それって地球から来た僕にも当てはまるんですか?」
「ああ、当てはまると思うよ。かつての仲間の中にも地球から赴任してきたのがいたはずだ」
「出身で選ばれるとかじゃないんですね・・・」「それを言うなら僕の曾祖父さんも地球出身だからなあ・・・僕もここで生まれてまだ四代目だよ」タナカはサイダーをぐいと飲んだ。
この星ではアルコールが禁じられているので晩酌は専らサイダーなどのソフトドリンクかお茶で行われるのが普通だ。飲みニュケーションはもちろん地球で言えばシラフで行われるのだが、会話内容は酔いが回っているかの如く珍奇である。でもそれがこの星の普通。
「でも中津くんはよくやってるよ、来て1ヶ月だったっけ?20代は順応力が早いなあ」
「はは・・・といっても僕はもう29になるんですけど・・・」
「いやあ!29歳なんてまだまだまだ若いよ、セーラーおっさん戦士になれる資格が出来るのは30をすぎてからだからね!」
年を取る事に誇りを持てとタナカは中津くんの肩を叩いて激励する。中津くんは心底微妙になりつつも作り笑いを浮かべてタナカの話にうんと頷いていた。早く地球に帰りたいなあ・・・なんて願いながら。

そういえばこの星では満員電車なんてものが存在しない。そもそも人口密度が少ないのかもしれないが、セーラー服を着用したサラリーマンたちは足を閉じてお行儀よく座り(足を開いて座れば注意が飛んでくる)お互いスカートが捲れはしないかと随分と気にかけている様子だった。皆ほとんどがちゃんとした下履きを穿いているからという話を聞いたけれど、それが一般最低限のマナーでありそのマナーを守っていない人間は制裁されるのだとか。中津くんももちろんそのルールに乗っ取った。なんていうか恥じらいというか戒めのような気分になるのかもしれないスカートが。身につけてようやくその感覚に気付くのなら地球の人たちはなんて鈍感だったんだろう。
痴漢が発生した事がほぼないらしいのは意外というかおっさんたちの自浄作用が働いているらしく、いやそれ以上に厳しい社会的制裁が加えられるという為だった。
「(セーラー服を着るという事が抑止力っていう方向のいい意味で働いているのかなあ・・・)」なんて中津くんはうつらうつらと寝ぼけまなこで考える。
「中津くん、随分と眠たそうだな」強面で髭面のアオシゲ部長ももちろんセーラー服。「はっ・・・!すみません。昨日タナカさんと飲んでいて」
「・・・さぞ遅い時間ま飲んでいたのかな?あまり支障が出ないように頼むよ」
アオシゲは中津くんとタナカを見やって困った顔をするとタナカはすみません!と元気のよい声を出した。タナカが中津くんより10歳以上年上なのに元気なのはセーラーおっさん戦士として現役だからかもしれない。といってこの星でする業務はといえば地球とはまるっきり違っていた。
「いかにして侵略してくるエイリアンを効率よく捌けるか」「セーラーおっさん戦士たちの心のケアの為の製品を開発すること」「退治したエイリアンから新しい物資が得られないかという研究」
等々新物資云々は地球側が寄越してきた要求と期待だ。しかしアオシゲやタナカは口を揃えて断言する。
「地球人はこの星の事をほんと何もわかっちゃいないんだ!」

エマージェンシー警報が社内に鳴り響いてざわめきだつ。アオシゲが「タナカくん!!出番だ!」と呼べばタナカは「やはり来たな!」と座っていたデスクを勢いよく叩いて立ち上がる。中津くんはそのやり取りを少し慣れたとはいえ呆然と見るだけだった。だがそんな中津くんの肩に手がかけられる。「中津くん、私と一緒にタナカくんを応援しに行こう!」アオシゲは有無を云わせず中津くんを引っ張り出して、先に出ていったタナカの後を追っていった。
宇宙人は巨大なピンクのこんにゃくのようにふにゃふにゃと歩いているが、歩くたびにピンクのぬめっとしたのが大地に付着するので車はスタックしていてあちらこちらに停まった状態。それだけ見たら世紀末のような光景だが本体はかなり柔らかいらしく、ビルに当たる度ににゅるりとその身体が滑っている。
セーラーおっさん戦士たち既に5人が集結していた。タナカは眼鏡をくいと上に正すと他の戦士たちもお互いを見て皆真面目な顔で頷くと口々に叫んだ。
「おっさんが世界を救ったって!いいだろうがー!」
光に包まれて次々に変身していくおっさんたちの姿は眩い。美しさとかはないが中津くんは思わず息を飲む。変身して少し豪華なセーラー服を身に纏ったおっさんたちがピンクのこんにゃくに向かって飛んでいき、キックやパンチをお見舞いする。その姿は正にヒーロー、いや戦う企業戦士である。だがこんにゃくは軟体すぎるのか攻撃があまり効いてないようだった。タナカを含めたおっさん戦士たちがこんにゃくの身震いにつるりと滑り倒される。「やはり、あれを使うしかないか!」タナカが号令をかけるとおっさんたちが集う。皆それぞれ二つ折りの携帯を取り出す。それをパカッと開くと「さあ、君の故郷に帰りなさい!」一斉にそう言うと携帯から放たれた光線がこんにゃくを包み込んだ。こんにゃくは上に向かったと思ったら気化するように溶けて消えていった。中津くんの隣でアオシゲはま、眩しいと言って顔を覆っていたが、特別眩しいという事もなく中津くんは黙って彼らの始終を目撃していた。
おっさん戦士たちは笑顔でお互いを見送った。
変身が解かれたタナカがこちらに向かって歩いてくる。「中津くん見たかい?タナカくんたちの勇姿を、君もいずれああなるかもしれないよ」アオシゲの言葉に中津くんは心底からそうならない事を願いつつ「はは・・・大変な役目ですね」と言うしかなかった。
「やあ!一仕事終わったよ、って部長!」
「うん見事だった・・・タナカくん。今日はもう終業にしようか」宇宙人が攻めてくればその日の仕事が終わるのはこの星の唯一良いところ・・・なのだろうか。いや、でも地球側からしたら色んな事が滞りすぎて仕事にならないだろうなとか思いながら中津くんは微々たるがこの星のゆったりとした時間の流れに適応しつつあるのを感じていた。

『中津くん、地球への帰還異動が明示されたよ。帰りたかっただろう?今地球は人手不足でね・・・』そう書かれたモニターを見て、中津くんは叫んだ。
「帰りたい、帰りたかったけど・・・地球はこの星の事を何もわかっちゃいない!」
「中津くん!」警報が鳴り響く中でタナカは颯爽と飛んでいく。中津くんはその後ろに素早くついていくと、その姿を見ていた新人が呆気に取られたような顔でいた。そしてすぐ後に「おっさんが世界を救ったって、いいだろうがー!」という声が聞こえてくると眩しく煌めく光が辺りを覆った。

 

文学に送ったやつ2つめ。個人的にだいぶ狙った感じだけどたぶん既出済だろうなあ・・・って思。あmでも意味不明すぎるのがよくないんだろうな、伏線も何もないっす・・・。