ぬかるみ小路に逸れる

文章の溜まり場所として使っていこうと思います(超不定期)

雪山

これも昔話~に送ってたやつ・・・ヤマナシオチナシ

 

「雪山記談」

 

あらすじ部分↓(をつけてねっていう体裁)

僕たちがその雪山へ冬登山をしたいと言うと登山サークルのOBでもある歴戦の先輩が「その山を越えるには・・・」と渋るように言う。難所な山なのかと尋ねるとそうではないと答える。なら何故と僕はその理由を知りたいのだと尋ねると先輩は渋りながらも自身の体験したというある不思議な昔話をしてくれた・・・。


あの山を越えるにはねえ、と先輩は言った。アマチュア登山家でありながら幾多の山を越えて歴戦(レジェンド)とまで仲間内では称されている田山先輩が、僕らが次に登ろうと計画立てている雪山に対して何か言いたい事があるらしかった。久々に会った先輩は変わらず日焼けて、引き締まった頬に白い歯を輝かせている。そんな顔をニヤリとさせて今の時期あの山を越えるのは大変だよと言って彼はマグカップのブラックコーヒーを口に含んだ。難所と呼ばれる雪山も越えてきた先輩が難しいという言うのなら相当難しい事なのだろうか。僕らにも先輩程ではないが一応雪山の心得というか場慣れはある。雪崩の危険性だとか雪道でのスリップ、ブリザードやクレバス、悪天は引き返す事などそういった諸々はなるべく気を付けているから、安全第一を心掛けてきたつもりだった。僕は先輩にやはり難所なのかと尋ねると、彼は難所というかそうだねえと曖昧な返事が返ってきた。「標高はそんなに高くない山ですけど、やはり垂直が多いとかですか」「そのコースは今回取らないんでしょ?」「ええ、じゃあ雪崩が起きやすいとか天候が変わりやすいとか?」「まあ、雪山はどこもそういうのが付き物だなあ」と何だか答えが身にならない。すると尾形が先輩にコイツにあの話してやって下さいよ、と言うので僕は聞かされてない知らない話があるのかと先輩を見つめた。先輩はあれなあという表情で少し黙ってから、今から話す事はあまり真に受けるなよと言ってから口を開いた。
先輩がまだ学生でフォーゲル部にいた頃だ。雪中登山と題してその時の数名で僕らが登ろうとしている雪山を同じルートで登ったという。当時は晴れで雪も固くこれは登頂出来ると喜んだ。八号付近にある無人の山小屋で一泊してから日の昇る前の早朝を出発した。雪を踏む音以外辺りは静まり返る。薄雲はかかるが雪も降らず晴れていたにも関わらず先頭の三人から先輩ともう二人を隔てるように突然風が吹き荒れ、先輩は道が分からなくなったという。これは不味い、辺り一面は真っ白で視界も冴えない、先頭たちの心配もしつつ自分たちは引き返し山小屋で連絡を取ったほうがよいだろうと思ったもののその山小屋への道も分からない。「田山、これヤバいんじゃないか?山小屋からここまでってそんな距離あったか?」雪の中先輩はスマホを出して先頭たちに連絡をしたという。「田山チームです。すみません迷いました。突然ブリザードが来て視界不良です」電波も悪いのか先頭リーダーの声もノイズが走ってよく聞こえない。「ん・・・ん?え・・・?何、で?み、え、・・・・・・」途切れ途切れの通話にそこで通信は切れた。スマホなんていうのも寒いとバッテリーの持ちも悪いからなるべく最悪の事態は避けたいと思いそこからじゃあ吹雪が終わるまで待つのかと思っていたところ・・・、ふと凛と黒い長髪を靡かせた女の姿がホワイトアウトの奥に鮮明に見えたという。「それって低体温症から来る幻覚じゃないですか?」と僕は尋ねると先輩はいやいやと言う。「実は気温はそんな寒くはなかったんだよ。冬装備もかなり着込んでいたしな」その女の姿は先輩チームの全員が目にしていて、先輩たちは今何か見えたよなと口々に言葉に出したという。するとザクザクと雪を踏みしめる音がして、もしかして先頭集団が引き返して来たのかもしれないと思ったがそうではなく、ただ雪道に小さな跡のようなものがポツポツと等間隔に並べられていた。何となく先輩はこの跡を着けてみたくなって、仲間にも待っていろと止められたが、一人惹かれるように着いて行ったという。「待って下さい、それって冬の山では特に危険行為ですよ」というと後ろで尾形が笑う声がした。まあまあでも俺はここにいるんだしと言って先輩は話を続けた。その点々とつづく跡にふと上を見上げればまた女の姿が今度はこちらを振り向いたように見えて、何か誘われているような気がしたが先輩の中にもどうしてか確信があったという。この跡と女は自分たちに道案内をしてくれてるんじゃないか。「雪山のホラー・・・雪女の話ですか?魅入られたみたいな」「・・・」先輩は黙って話を続けた。下を見て雪に出来た跡を辿って行く、上を見ると時折女がこちらを見ている。着いて来いと言わんばかりに。先輩が歩いて行くと次第に吹雪は収まり晴れてきて視界が開けてきた。のと同時に麓の町並み、外灯が見えてきて自分がだいぶ下り道を歩いている事に気付いたという。振り返り見上げれば山小屋が上の方に小さく見えて、その数百メートル先ぐらいに目立つ色を着た仲間の姿。先輩は慌てて置いてきた仲間に連絡を取ると彼らは視界が開けてきた事、先頭集団が登頂に成功していた事、しかもその彼らが下山してきた時に合流したので今から下るというから先輩は呆気に取られたという。「・・・?それってどういう事ですか?」「・・・どういう事なんだろうなあ」麓のペンションで無事に合流した先輩たちは自分たちが吹雪に遭った事などを話したが先頭集団たちは首を傾げるばかりだった。「全くと言っていいほど山頂まで好天だったぞ、田山たちが何で着いて来ないのか不思議なくらいに」「俺らのいた所だけが丁度ブリザードだったんですかねえ」先輩が言うと先頭集団の一人がやっぱり首を傾げた。「いや俺たちからは普通にはっきりとお前らが見えてたぞ、ずっと腹でも痛いのかってくらい待機してて何やってんだ?アイツらって、なあ?」それを聞いて先輩も何が何だかわからない。女を見たとか跡があったと言えば跡は確かにあったと言う。先輩の足跡ともう一つ。「あれはテンかイタチか何か小さな動物の足跡じゃないか?」「女の姿はお前、それ雪女って言うか?彼女が恋しいだけなんじゃないか?」といってからかわれて先輩は苦い思い出だったと話す。
「・・・雪女に化かされたという話ですか?」「うーんまあ・・・でも雪女っていうのも何か変な話だろ?」普通、雪女っていうのは気に入った人間の男を氷漬けにして攫っていってしまう妖怪だろう気に入った男がいれば見逃すより逆に取り入って来るだろう、と。小さな子どもなら見逃して、その子が大人になるまで待つというパターンの話はあった気はするが仮に先輩を気に入ったからとして見逃してあげるなんて事はするのだろうか、当時の先輩は学生と言えども既に成人していて子どもではないのに。もう一度登ろうとした時は悪天候で山小屋手前で断念、しかし卒業してから会社の山岳同好会ともう一度この雪山に登った時は特に何にもなく登頂に成功したという、そしてその時の同好会で知り合ったのが先輩の奥さんだった。「雪女ってのは雪のように肌がきめ細やかで色白な美人って事だよ」先輩はそう言い笑うが前に紹介された奥さんも山に登る人とあって、小柄な方ではあるが日焼けして健康的な人だったから、昔話のように雪女=奥さんという図式はたぶん当てはめられない。「まあ、そういう事があったって昔話だ。気をつけて行けよ」ああ、あとそれからと先輩は思い出したように言う。「あの雪女、真っ赤な服着てたんだよなあ」

僕らが登った時、それは酷い悪天候だった。いや快晴だった筈なのに突然荒れだしたのだ。山というのはこういう事があるから、そこが面白くもあり挑戦意欲をかき立てられる目標にもなるのだが・・・。「ちょっとまずいかな・・・山小屋までどれくらいだっけ?」僕たちはまだ山小屋まで辿り着けずにいた。あとちょっとの所なのだが、突然吹き荒れたのが来て視界不良である。「このまま引き返した方が良くないか?」尾形もそう言うので僕も素直にそうする事にした。先輩から聞いた雪女の話は信じてないが、やはり山の天気は変わりやすい。そういう気まぐれな変化を雪女という妖怪のせいにしたくなる気持ちも分からなくはない。彼女が気に入った人間を氷付けして連れ去ってしまう為に吹雪を起こす・・・。来た道を引き返していくにも危険な状態ではある、もう少し収まるまでその場で待った方が良い。だが幸いにも付けてきた足跡がまだ残っている。新たに積もって消える前に辿れればある程度は戻れるはずだと行くがそれも途中で終わった。尾形が麓のペンションに連絡をしてくれたので、宿の人々は事態を把握してくれている。曇り空の中、途方に暮れているとふっと視界に赤い色が見えた。他の登山者だろうか。「赤い服を着ていたんだよなあ」先輩から聞いた雪女の話を思い出す。いや、まさかそんな事はない。すると横にいた尾形が僕の肩を揺する。「おい、真島ちょっと見てみろよ、下」「下?」下を見れば小さな足跡のような点が規則的に並べられている。背筋がぞわっとしたのは顔に当たる寒風のせいだと。それもその足跡だけは雪に埋もれる事なくはっきりとしていた。上を見上げれば赤い人はまだ視界の隅にいて、まるで僕たちの事を待っているようだった・・・。「あれって先輩の言ってた雪女じゃないか?」「そんなの有り得ないだろ」「でもだったら町まで戻れるんじゃないか・・・?」尾形がその赤い人を、足跡を追うように歩いていく。僕は尾形を止めようとしてついて行くが、尾形には躊躇いがないのかずんずんと速く進んでいく、斜面や大穴があったらどうするんだという心配もよそに。片足が一瞬滑って僕はこの道が登り道ではないかという事に気付いた。これは先輩の話と違う。尾形はお構いなしに上がっていく。赤い服の何かもちらちらと視界に入る。「尾形!おがたー!戻れ!もどれー!」叫んでみても彼はずっと登っていく、相変わらず視界は不良なのに。すると僕の横をすっと進んでいった赤が見えた。尾形の前にいる赤い人と似ていると思ったが目の前を通っていった姿を見れば全然違う。真紅といったような赤い服、それが雪山に相応しくない裾がひらひらとした服。それにはっきりと艶のある黒く長い髪を靡かせて、細く小柄な身体が女性だという事がわかる。「ゆき、おんな・・・?」紅い人は尾形の奥の赤い人を雪で覆い隠すようにして真っ白に見えなくした。僕はそんなホワイトアウトした様子をしばらく見ていると白い奥から黄緑色の人影が歩いて来るのが見えた。「真島!良かった・・・お前がここにいるって事はここ下りか!」尾形は泣いたような声を出して言う。「いや、まあ・・・」僕は返答に困っていると尾形は続いて言う。「だよな、あれ先輩の言ってた通りの雪女だよ・・・」僕は無言になった。とりあえず帰ろうと後ろを振り返ってみれば、僕の横を黒く長い髪をした女性が通っていった気がした。やはり小さな足跡を追っていけば下り道に差し掛かったのがわかったと同時に雪は止み、晴れ間が広がる。麓の町が見通せたが不思議な事に雪が開けると空は既に夕焼けに染まる頃だった。「やっ、やっと帰れたな・・・長かったな」とベソをかく尾形の隣で僕は後ろを振り向いた。「本物の・・・」そして声には出さずに心の中でありがとうと礼を言った。
ペンションに戻るとオーナーさんはよく無事でと言って涙を流してくれた。事を話さなくてもよいと思ったが尾形が話してしまったので、それはどうしようもなかった。するとオーナーさんは変だなと言った。「雪女が赤い服を着てるってのは初めて聞いたよ」「以前田山さんもそう言ってたんですよ!」「ああー!田山君も言ってたなあ気に入った人間を下山させる雪女の話か、不思議な雪女だね」とりあえず無事だった事は何よりだと、しばらく雪の日が続くそうで今回の登頂は残念そうだと、でもまた今度挑戦すればいいとオーナーさんは励ましてくれた。僕は話を相槌を打って話半分で聞きながら隣を通っていったあの女性の事を思い出していた。
ちらりと見た横顔の美しさ、切れ長の瞳に鼻の高くモデルのようだった。艶のある黒髪に白い素肌。紅い服がよく映えていた。僕はまた彼女に会いたいと思ってしまいながら、彼女に会うことは即ち登頂出来ないという事でこれが雪女に憑かれてしまったという事なんだなあと自覚せざるを得なかった。

 

普通に創作話、オチがない。

若い内の読書は買ってでも・・・

あれだけお茶の俳句宣伝しておいて今年度のやつは応募しなかった・・・する気がなかったというか面倒だと思ってたらそのまま期間終わってしまった・・・。でも応募倍率900とかって見た気がするしもはや宝くじとか懸賞応募だよなあ・・・。

あと何か俳句があまり自分にはわからない・・・というかわかろうとしてないです・・・。いつぞやに某教育テレビの俳句とかの番組もちらっと見た事あったけど、そのどれもがもうハイレベル(レベル的な評価も自分には出来ないのだが評論してる人の解説とか聴くとなるほど・・・?な感じだったけど)というかプロなんじゃないの・・・?っていうレベルで・・・。感性とか理論とか難しいなと思った。

本とか全然読んでないので、何も生み出せないんだよなあって・・・。読書したいものは色々あったけどもっと若いうちに読んでおけばなあ・・・年を取ると読む事もストレスになってしまう・・・。新しい考えを受け入れられなくなってしまうからなのか、ただ文章追うのに(理解するのに)疲れてしまうからなのか・・・。若い時に読書習慣がある人は年を経ても苦にならないのだろうな・・・私が苦になると思うのは単純に読書という行為が自分に染み付いてないから・・・悲しい事に。

何が染み付いてるのだろうってゲーム・・・テレビゲームくらいか・・・これが年取ったら一番辛いやつなのに・・・(テレビの前に座ってられない)携帯ゲーム機なのかなあやっぱりGBとかGBAとかそんなの・・・。

もしこの世で会うとしたら

昔話の二次創作~のあれに応募してたやつ何もなかったのでここに載せとく

 

『もしこの世で会うとしたら』

 

寂れた一角、高架下は車が一台通るのがやっとな広さ。その手前に小さな押しボタン式の横断歩道がある。本当に少しの間で車通りも疎らなのでほとんどの人は信号を無視して渡るか、その先にある駅前まで続く大きな陸橋まで歩いていくかでほとんど忘れられたような横断歩道である。近くにある幼稚園に通う児童たちがたまに使っているぐらいそんな場所に奇妙な噂があった。この横断歩道には音が鳴るのだがそれ自体は当たり前にありふれているがよく聞く鳥の囀りではなくメロディーが鳴る。ここまでは何の変哲もないがその曲が所謂童謡の「通りゃんせ」であった為にある都市伝説が生まれたのである。『深夜丑三つ時横断歩道に通りゃんせの音楽が鳴った時に渡るとあの世に行ける』といった類のもの。これまで何人もが肝試しと称してこの噂を検証しようとしたというが、実際にあの世に行って帰って来なかったというのもあればそもそも横断歩道は夜になると自動で切り替わる為に曲がかからないだとかを実際に行政に確認を取ったというものまで現れる辺り、都市伝説の口伝というもののあやふやさが顕著にあるが、今でもその横断歩道はひっそりと存在していた。コトノもその噂を大昔に聴いた事がありまた何度も通った事のある一人であったが娘のイツキを幼稚園に送迎する為に横断歩道を利用していた。自宅からだとだいぶ近いのだ。不吉な噂は絶えなかったが不思議と事故は一度も無い場所であった。「ママー、鳴ったよー」「うん、はい。手を繋いでね」信号は比較的長い間青になるのでゆっくりと渡る事が出来た。

昔は通りゃんせという童謡はどこか物悲しいメロディーで辛気くささすら感じるものだと思っていた。何でこんなメロディーが青の合図なんだろう、ただ通っていいという理由だけでこの曲が選ばれたのだと思うけど、歌詞は七五三のお詣りのような話で天神様の通り道、御用のないもの通しゃせぬ・・・なんてちょっとホラーなようにも思えるのに。ただそういう雰囲気なんだろうけど・・・でも今はそんなメロディーも懐かしい記憶の中で子どもの頃の話でしかない。そんな折、この信号が近々撤去されると知ったのはローカルテレビのニュースでの話。
「あら、見て。懐かしいわね、ここ全然変わってないみたい」母が言ったのをふーんとスマホを弄りながら聞いていた。「よくここ渡って通ってたわね、あの幼稚園とっくのとうになくなったんだったかしら」「全部併合されたんでしょ、子ども少なくなったし」幼稚園が併合されて消えたのはもう何年も前の話だからそれから最近までこの横断歩道は誰が使ってたんだろう、もっと早くになくなっているものだと思っていた。家は中学生になってから少しだけ引っ越ししたので、この横断歩道のある道を歩く事はなくなった。一応近所といえば近所だが家とは反対の方向で駅に行くにも遠回りになるのでその道を利用する事は殆ど無かった。「わたしあの鳴る音楽好きじゃなかったな」「通りゃんせだっけ、私が小さい頃から流れてたわよ」「なんか不気味というか怖いって学校で皆言ってた」同じ幼稚園に通ってた子と小学中学になって話すとあの信号とあの曲なんか不気味だったよねという話題が必ず上がっていたほどだった。あの世に行ける・・・って皆で怖い話ばっかしてた。同じ幼稚園だった子が行っちゃったとかそういう根も葉もない噂。実際は小学校で学区も別れて消息もわからなくなった誰かの事をそう言っただけだったんだろうけど、私も逆に誰かに言われてた可能性もあるなと大人になって思う。
家から駅まで行くなら左回りで行った方が確実に早い。右回りで行くと外回りになって昔住んでた場所と幼稚園の近くになり例の横断歩道がある。横断歩道から駅側に向かった場所にはコンビニも出来てそこまでは栄えている。高架の上の路線はローカル電車が走っているがだいぶ減便されていて一時間に一本から二本というぐらい。線路の奥側は山に繋がっていて新興住宅地もあったけど住んでる人の高齢化に伴って今はだいぶ住んでる人は少なくなったらしい。というよりもこの場所に住んでる人も昔と比べたら少なくなったのだ。幼稚園は隣町に併合されたし友だちは皆地元にはいない。今でも住んでる方が珍しいくらいだった。コンビニでお酒とおつまみお菓子を買って横断歩道へ向かって歩いていくとLEDの外灯が照らす。昔よりだいぶ明るくなったが車一台分の通れる高架下は相変わらずオレンジ色の朧気な光が弱々しくついていて吸い込まれるような怖さがあった。昔昼間でも暗がりが怖かったが、たまに自転車に乗ったおばさんやおじさんが通ってくるとほっとしたのを覚えている。渡る理由も何もないけれど横断歩道のボタンを押してみようかと思った。車はほとんど通らないから妨げにもならない、と思ったけれどボタンは「お待ちください」という案内のまま。ボタンの上を見ると(20時~6時まで時差式)と書かれていた。なんだと思っていると信号が青に変わった。渡っていった先は高架沿いに裏道のようなのが続いている、その先に幼稚園のグランドがあったので近道というか入り口は反対だったけど。人気のない場所でぽつんと突っ立っているのも無沙汰で、そのままコンビニの方に戻って帰ろうとすると、後ろから「あの・・・」と声を掛けられたので驚いて振り向くとそこにいたのは自転車に乗った見知らぬ青年だった。
「すみません、あの・・・お聞きしたいんですが通りゃんせの信号ってここ・・・ですよね?」彼は自転車に跨がりながらスマホを弄ってマップを開いて見せてきた。たぶんそうだと思いますよ、そうなのだが曖昧な返事をして足早に去ろうとした。青年は半袖ズボンにラフな格好で若い学生っぽい見た目だがこんな人気のない場所なら不審者である可能性も充分だ。ありがとう御座いますと青年が言うのを後ろで聞いて、彼は一体どうするつもりなのだろうと思った。まさかあのメロディーが鳴った時に渡ると・・・というのを実践しようとしてるのだろうか。コンビニの明かりの前まで来てからようやく振り返って横断歩道を見ると車用の青信号が見えた。歩道の方を見ると光がちらちらと見えていて、やっぱりあの人は噂を聞いてやってきたのか、物好きというか今時の動画配信者っていうやつかもしれないと思った。
部屋に上がり酒を飲んでおつまみを食べる。何気なく「通りゃんせ 信号」なんて検索してみると全国各地にあるその曰く付きがザッと出てくる。どこが最恐だとか何だとか。そんな中に一つN県N市M町の横断歩道の書き込みがあった。それはちょうどこの場所の事だった。『7つになる前にこの信号を渡るとあの世に行ってしまい帰って来れなくなる』そんな事はない。私はもちろん母も幼稚園の時から使っているのだから7つになる前に通っている、そしてあの世には勿論行った覚えはない。その下に書き込みがあった。『帰るにはどうしたらいいですか?』『深夜、音楽が鳴ってない時に後ろ向きで信号を渡ると帰って来れますよ』さらに下にはあの世というより別時間に行ってしまう感じです、と。私が昔に聞いた話より随分と盛られている。下らないなと思いなら、何となくさっきの青年の事が気になった。あの青年は何の噂を見てやって来たのだろう。何の為にやって来たのだろう。普段なら絶対に私はこういう行動はしないし、いやたぶんだいたいの人はこんな行動とらないのだろうけど・・・。
コンビニから少し歩いてあの信号の手前まで、見通してみると既に青年も誰もいなかった。当たり前の事に自分が馬鹿らしくなる。すると信号が静かに青色に変わった、時差式なので当然で、車も一台も通らない。すると先ほどの後ろ向きに渡ると帰ってこれるという書き込みが頭に浮かんだ。ここがもしあの世だったら・・・。「(ああ・・・私、元の世界に帰る事が出来るのかな?)」ふらふらと暗闇に吸い込まれるように横断歩道の前まで歩いて、後ろ向きに渡るって難しいと思いながら・・・歩くシルエットの写る青色を見つめながら静かな信号を私は後ろ向きに渡っていると、白いヘッドライトが横から自分を照らした。「危ない!」叫び声が物が倒れる音が聞こえて、後ろから腕を強い力で引っ張られて私は後ろに倒れ込んだ。車のエンジン音が遠ざかっていく。信号は再び赤になり辺りは暗闇と静寂に包まれたが私の後ろには誰かの温もりがあった。私はあっと気付いた、誰かの腕が私の身体を包んでいたからだ。振り向けば盛大に地面に倒れた自転車と・・・あの青年の顔があった。青年は泣いているようだった。「・・・どうして?」私の口から出た言葉は酷く嗄れていた。「・・・危ないよ・・・おばあちゃん」そう言われて私は自分の手を見ると細くしなびて皺だらけだった。暗がりに信号だけがチカチカと点滅している。「・・・ここが元の世界なの?」ゆっくりと尋ねると青年は違うと言った。「違う、違うけど・・・そうかもしれない」「あなたは誰なの?私の子ども?それとも孫?」後ろにいた青年は座る私の前に座った。すると彼の顔はさっきあの時の青年のままだったのに何故だか懐かしさも感じられた。「おれは、おれは・・・もう一人のおじいちゃんだよ・・・」「どういう事?あなたは私の夫なの?」彼は首を横に振る。「この信号を渡らなかったから・・・おれは生まれたんだ」彼はコトノという名前を出した。母の名前、私と同じだと言う。だがそれだけの事なら偶にある事だ。「母さんはこの横断歩道を渡る時に事故にあって、それから違う町の幼稚園に通ったんだ」えっ・・・?それから語られていくのは私の知る母の事と殆ど一致していて開いた唇が渇いていくようだった。私は母に連れられて母の手を引いて親子同じ幼稚園に通っていた、それもこの横断歩道を渡り歩いて。どういうことなの?と尋ねると「おれとおばあちゃんは同じ人なんだと思う、たぶん双子みたいなもので・・・でもおばあちゃんの母さんは信号を渡って、おばあちゃんも渡った」音楽の鳴る間に私たちは信号を渡りきった。私には当たり前の事だったがその時に世界は分れたと、彼はそんな事を言う。「じゃあ、なんで私はおばあちゃんなんて言われて年を取ってあなたは若いままなの?」すると青年は静かに言う。「おれの世界と時間の経つのが違うんだ。”御用のないもの”なのはおれの方だから・・・」「あなたはさっきこっちにいたけどどうやって来たの?」「おれは・・・・・・おれも渡ったんだ、夜中にメロディーが鳴った時に」あの世に行けるという噂の事だ。私の世界はあの世なの?と問いかければ自分にとってはあの世なのかもしれないと彼は笑って言う。彼は私にあなたは帰らないと、こっちの世界はもうじき信号が撤去されるからと言って私の方も同じだと言うと彼はそれは同じなんだねと頷いた。彼が信号の押しボタンを押すと時差式だと思っていた信号がすぐ青に切り替わる、あの悲しげなメロディーが反響した。彼に見送られながらゆっくり踏み出して渡っていくと私は彼を思い出した気がした。たぶん生まれてくる前の事、彼はもう一人の自分だと言っていたけど違う、「お兄ちゃん・・・」ポツリと出たその一言、気がつけばコンビニの明かりが見えた。
それから程なくして信号は撤去された。

 

(童謡『通りゃんせ』が題材だった・・・実は自分でもわりと展開苦しいな意味不明だなって思ってた・・・)

おっさん異文カルチャー

おっさん異文カルチャー

 

 

「おっさんが世界を救ったっていいだろうが!」と一人のおっさんが叫ぶとおっさんたちはより派手やかでキラキラした衣装のセーラーおっさんへと変身する。そして侵略してきた長い触手のいっぱい生えたスライムみたいなエイリアンに向かってセーラーおっさんは手に持っているスマホじゃない携帯電話からビームを放つ。
「これで終わりだ!」決めゼリフとともに放たれた閃光がエイリアンを貫いたが光の中にその影はまだ残っていた。けれどもう敵意は感じられない、エイリアンは頭を触手でさすって涙を浮かべながら空に返っていった。「この星の平和は私たちが守る!」セーラーおっさんの眼鏡がキラリと光った。
「僕は初めてこの星に来たのですが、正直度肝を抜かれましたよ」と中津くんは言う。「そうか!君のいた地球ではまだ」タナカが言いかけると
「はい・・・地球のおっさんはセーラー服なんて着てませんから・・・」
「そうだよね・・・それは何とも異文化交流だったね」
タナカと中津くんは居酒屋のカウンター席で二人肩を並べながら甘くないサイダーを飲んで、黒くてよくわからないが、地球でいうがんもどきに似たような味の染みて美味しい煮物をフォークでつついていた。店内はクラブのように色んな光が妖しく舞うがBGMは地球の歌謡曲だった、それもちょっと古臭くてだいたい2000年代くらいに流行った感じのだ。タナカはセーラーおっさん戦士の一人で中津くんの赴任してきた会社の上司にあたる。中津くんに地球からこの星への異動命令が出されたのは1ヶ月くらい前の事で本当に突然だった。
地球の上司からは何の前情報も知らされてなかったから中津くんはこの星に来て改めて地球とは違う常識に驚いたのだ。まずおっさんと呼ばれる所謂サラリーマンたちが皆セーラー服を着ていることだ。セーラー服はかつての海兵隊の着ていたのが元になったから男が着ていても違和はない、わけではなかった。地球で言えばそれは主に女学生が着るようなスカート、そして間違いなく危険人物として通報されるだろう。だけどこの星ではそれはネクタイとスーツのような正装であるらしかった。
「中津くんもだいぶ様になってきたように思うがなあ・・・まだ慣れないかい?」
「ええ・・・さすがに・・・」この星でサラリーマンということはつまりセーラー服を着る事になるので中津くんも例に漏れずという訳だがさすがにまだ慣れない。タナカは「だけど君もこれからセーラーおっさんとして敵と戦う日が来るかもしれないんだぞ」と言う。なぜかこの星ではおっさんたちはある日突然選ばれたセーラーおっさん戦士として突如星に侵略してくる外敵エイリアンと戦わなければならない使命があるのだった。
「それって地球から来た僕にも当てはまるんですか?」
「ああ、当てはまると思うよ。かつての仲間の中にも地球から赴任してきたのがいたはずだ」
「出身で選ばれるとかじゃないんですね・・・」「それを言うなら僕の曾祖父さんも地球出身だからなあ・・・僕もここで生まれてまだ四代目だよ」タナカはサイダーをぐいと飲んだ。
この星ではアルコールが禁じられているので晩酌は専らサイダーなどのソフトドリンクかお茶で行われるのが普通だ。飲みニュケーションはもちろん地球で言えばシラフで行われるのだが、会話内容は酔いが回っているかの如く珍奇である。でもそれがこの星の普通。
「でも中津くんはよくやってるよ、来て1ヶ月だったっけ?20代は順応力が早いなあ」
「はは・・・といっても僕はもう29になるんですけど・・・」
「いやあ!29歳なんてまだまだまだ若いよ、セーラーおっさん戦士になれる資格が出来るのは30をすぎてからだからね!」
年を取る事に誇りを持てとタナカは中津くんの肩を叩いて激励する。中津くんは心底微妙になりつつも作り笑いを浮かべてタナカの話にうんと頷いていた。早く地球に帰りたいなあ・・・なんて願いながら。

そういえばこの星では満員電車なんてものが存在しない。そもそも人口密度が少ないのかもしれないが、セーラー服を着用したサラリーマンたちは足を閉じてお行儀よく座り(足を開いて座れば注意が飛んでくる)お互いスカートが捲れはしないかと随分と気にかけている様子だった。皆ほとんどがちゃんとした下履きを穿いているからという話を聞いたけれど、それが一般最低限のマナーでありそのマナーを守っていない人間は制裁されるのだとか。中津くんももちろんそのルールに乗っ取った。なんていうか恥じらいというか戒めのような気分になるのかもしれないスカートが。身につけてようやくその感覚に気付くのなら地球の人たちはなんて鈍感だったんだろう。
痴漢が発生した事がほぼないらしいのは意外というかおっさんたちの自浄作用が働いているらしく、いやそれ以上に厳しい社会的制裁が加えられるという為だった。
「(セーラー服を着るという事が抑止力っていう方向のいい意味で働いているのかなあ・・・)」なんて中津くんはうつらうつらと寝ぼけまなこで考える。
「中津くん、随分と眠たそうだな」強面で髭面のアオシゲ部長ももちろんセーラー服。「はっ・・・!すみません。昨日タナカさんと飲んでいて」
「・・・さぞ遅い時間ま飲んでいたのかな?あまり支障が出ないように頼むよ」
アオシゲは中津くんとタナカを見やって困った顔をするとタナカはすみません!と元気のよい声を出した。タナカが中津くんより10歳以上年上なのに元気なのはセーラーおっさん戦士として現役だからかもしれない。といってこの星でする業務はといえば地球とはまるっきり違っていた。
「いかにして侵略してくるエイリアンを効率よく捌けるか」「セーラーおっさん戦士たちの心のケアの為の製品を開発すること」「退治したエイリアンから新しい物資が得られないかという研究」
等々新物資云々は地球側が寄越してきた要求と期待だ。しかしアオシゲやタナカは口を揃えて断言する。
「地球人はこの星の事をほんと何もわかっちゃいないんだ!」

エマージェンシー警報が社内に鳴り響いてざわめきだつ。アオシゲが「タナカくん!!出番だ!」と呼べばタナカは「やはり来たな!」と座っていたデスクを勢いよく叩いて立ち上がる。中津くんはそのやり取りを少し慣れたとはいえ呆然と見るだけだった。だがそんな中津くんの肩に手がかけられる。「中津くん、私と一緒にタナカくんを応援しに行こう!」アオシゲは有無を云わせず中津くんを引っ張り出して、先に出ていったタナカの後を追っていった。
宇宙人は巨大なピンクのこんにゃくのようにふにゃふにゃと歩いているが、歩くたびにピンクのぬめっとしたのが大地に付着するので車はスタックしていてあちらこちらに停まった状態。それだけ見たら世紀末のような光景だが本体はかなり柔らかいらしく、ビルに当たる度ににゅるりとその身体が滑っている。
セーラーおっさん戦士たち既に5人が集結していた。タナカは眼鏡をくいと上に正すと他の戦士たちもお互いを見て皆真面目な顔で頷くと口々に叫んだ。
「おっさんが世界を救ったって!いいだろうがー!」
光に包まれて次々に変身していくおっさんたちの姿は眩い。美しさとかはないが中津くんは思わず息を飲む。変身して少し豪華なセーラー服を身に纏ったおっさんたちがピンクのこんにゃくに向かって飛んでいき、キックやパンチをお見舞いする。その姿は正にヒーロー、いや戦う企業戦士である。だがこんにゃくは軟体すぎるのか攻撃があまり効いてないようだった。タナカを含めたおっさん戦士たちがこんにゃくの身震いにつるりと滑り倒される。「やはり、あれを使うしかないか!」タナカが号令をかけるとおっさんたちが集う。皆それぞれ二つ折りの携帯を取り出す。それをパカッと開くと「さあ、君の故郷に帰りなさい!」一斉にそう言うと携帯から放たれた光線がこんにゃくを包み込んだ。こんにゃくは上に向かったと思ったら気化するように溶けて消えていった。中津くんの隣でアオシゲはま、眩しいと言って顔を覆っていたが、特別眩しいという事もなく中津くんは黙って彼らの始終を目撃していた。
おっさん戦士たちは笑顔でお互いを見送った。
変身が解かれたタナカがこちらに向かって歩いてくる。「中津くん見たかい?タナカくんたちの勇姿を、君もいずれああなるかもしれないよ」アオシゲの言葉に中津くんは心底からそうならない事を願いつつ「はは・・・大変な役目ですね」と言うしかなかった。
「やあ!一仕事終わったよ、って部長!」
「うん見事だった・・・タナカくん。今日はもう終業にしようか」宇宙人が攻めてくればその日の仕事が終わるのはこの星の唯一良いところ・・・なのだろうか。いや、でも地球側からしたら色んな事が滞りすぎて仕事にならないだろうなとか思いながら中津くんは微々たるがこの星のゆったりとした時間の流れに適応しつつあるのを感じていた。

『中津くん、地球への帰還異動が明示されたよ。帰りたかっただろう?今地球は人手不足でね・・・』そう書かれたモニターを見て、中津くんは叫んだ。
「帰りたい、帰りたかったけど・・・地球はこの星の事を何もわかっちゃいない!」
「中津くん!」警報が鳴り響く中でタナカは颯爽と飛んでいく。中津くんはその後ろに素早くついていくと、その姿を見ていた新人が呆気に取られたような顔でいた。そしてすぐ後に「おっさんが世界を救ったって、いいだろうがー!」という声が聞こえてくると眩しく煌めく光が辺りを覆った。

 

文学に送ったやつ2つめ。個人的にだいぶ狙った感じだけどたぶん既出済だろうなあ・・・って思。あmでも意味不明すぎるのがよくないんだろうな、伏線も何もないっす・・・。

湯は万物の頂にて

「湯は万物の頂にて」

 

湯船の中に柚子を一つ浮かべて柚子風呂を楽しむ。といってもほとんどは柚子の入浴剤に頼ったから本物の柚子は一つだけ。見切り品で2つ3つ入っているのを買った。傷みの少なかったのは湯豆腐に入れて使い、残りはきゅうりと大根と人参の浅漬けの中に入れ漬けておく爽やかな風味の漬け物が食べたくて。柚子の風味が好きなのだ。残った一つはちょっと贅沢だけど丸ごとお風呂に使った。まずそのままよくイメージする柚子風呂というような感じでお湯に浮かべてみたけど、一個だけだとおもちゃが浮かんでいるみたいになる。それだけで匂いがする・・・かは微妙だったので入浴剤の出番。薄いオレンジ色の湯と浮かぶ柚子。
私はこういう特別なお風呂が好きだった。石鹸バブルなお風呂とか、ローズ風呂とか花を散らしたり香油を垂らしたりするような贅沢なお風呂タイムを楽しむことが趣味みたいなとこがあった。最初は大変だったお風呂掃除も今では次の風呂は何にしようかとワクワクするようぐらいには慣れたものだった。
今宵の柚子風呂。水面に顔に近付けてみる。浮かんだ柚子を手にとって、ふやけた皮を少しだけ押してみる。少し傷んではいるけど香りはやっぱり柑橘の清々しさがある。本格的な柚子風呂だったら大量の柚子が浮かんでいて見た目に感動するだろうと実際に行って楽しむのもいいんだろうけど近場でやっている所がないから残念だ。
温泉の露天風呂の中に柚子風呂。湯気の中に眩しく黄色。情景を想像したら露天風呂が欲しくなった。露天風呂付きってどんな家だろう、山の中湖畔の中、木で出来たログハウスのような家・・・?木でなくてもいいけど都会の真ん中じゃまず露天風呂なんて無理だ本当に色々。北海道みたいなだだっ広い360°平野の大自然って感じの場所ならどうだろう。いやダイナミックすぎて柚子が霞むな。そんな他愛のない想像を張り巡らせて今日もゆっくり長風呂に。まあお風呂の温度は低めに設定しているんだ、この時の為に。
さて今度はどんなお風呂にしよう。そうだ久しぶりに外のお湯でも楽しもうかと銭湯に行こうと思いつく。隣町に24時間の大きなスーパー銭湯というのがあって薬湯や電気湯、ラジウム湯とかうたせ湯と10種類ぐらい湯船がある。お風呂のデパートみたいな感じでロウリュを備えたサウナもあるし岩盤浴もあるし簡易宿泊も出来るのだ。癒やされるというよりはワクワク遊びに行くような楽しみがある。次の休日はそれだ、そこに行こう。
雨ということもなく快晴だったのが嬉しい。自転車で汗を流してこの汗がお風呂の楽しみを引き立たせてくれる。家から隣町までは距離こそは遠くはないのだが少し上り坂になっているのだった。帰りは湯上がりの火照りが下り坂の心地よい風で冷めるだろう。時折自転車を止めてスマホで地図を確認する。道は合っている。そのまま進んでいくと上の方に大きな赤い文字で「湯」とかかれた看板がにゅっと姿を表した。
ラジウム湯」「お食事あります」とかかれた旗が立っていて縦に高いこの銭湯。広い道路の目の前に立っていて駐車場には正午すぎでも結構車が泊まっている。ご飯を食べに来たわけでもないので私はゆっくりとお風呂に浸かるだけだ。
チケットを買って受け付けを済ませると館内は車の止まっているわりに人は少ない。皆お風呂に入っているのだろうか。と思って脱衣所にも人は見あたらなくて、浴場への扉を引くと洗い場にも誰もいない。一番シンプルな大浴槽の方は湯気でよく見えなかったがたぶん何人か入っていると思われた。何分お風呂の種類が沢山あるものだから皆思い思い好きな湯船に浸かっているのだろう。普通は家から持参するシャンプーや石鹸を使わずに銭湯備え付けのものを使うのも味がある。嬉しいことに馬油なんてのも置いてある、イマイチ効果はよくわからないけど。
お風呂の入る順番はこだわっている訳ではないけれど今日の気分的に泡風呂を初めにチョイスする。泡が浮いて水面がぼこぼこ泡だつ。入ってみればなんてことのないお風呂だけども家庭では泡立たせるなんてほぼ出来ないので、外での楽しみといえば楽しみだ。サイダーの中に入ったような感じがするけど炭酸水という訳ではないんだなあと底にある泡の発生装置を踏んで思う。ブルーやグリーンのクリームソーダ風呂なんてあったら可愛いだろうな。薬湯は壺の形をした浴槽に入れられている、魔女の秘薬のような感じ。長く浸かることを想定しているのか
ラジウム湯はぬるめの温度。長湯向けなのか。
水風呂の水が足にかかってヒンヤリする。サウナに入りたいのは気分によるので今日は特にその気ではないが銭湯などで水風呂に入っている人を見かけるといいなと思う。
そろそろ露天風呂にと露天の扉を開けると、すうと甘い匂いが漂ってくる。見れば露天風呂には果物が浮いていた。林檎?思いがけず驚いた。今日は何か特別な日なのと思っても特に思い当たりはしないのだ。そしてやはり私以外に誰もいない。入ってみてさらにびっくりしたのは湯の色が濃い茶色だと思っていたがこれが湯を掬って嗅ぐと紅茶のようだった。アップル風呂?まさか、と思うも湯を舐める訳にもいかず。しかし林檎は本物のようだ。
不思議に思っているとガラガラと扉が開く音がして入ってきたのはなんと、大きな猿だった。えっ、と私は硬直するが猿はきちんとした二足歩行でハンドタオルを片手にそそくさと湯に浸かりにやってくる。猿は気持ち良さそうにして目を細めていた。そして浮いた林檎を手に取るとそのまま優しくかじりつく。猿は頭が真っ白になった私を見て、この林檎は食べれるのだという風にジェスチャーをした。そしてしゃくっと小刻みのいい音を立てながら一気にかじりついていた。私は促されるままに林檎を手に取り恐る恐る一口かじってみるとアップルティーのような味がした。ほらね、美味しいでしょ?という風に頷く彼女(?)に私は張り付いたような笑い顔を見せながら林檎を持って露天風呂を後にした。
私はのぼせてしまったのか?まさかあんな猿が見えるなんて。それでもまだ火照りもふらつきもないしお風呂は楽しみたい。
内風呂に戻ると洗い場の音が反響して賑わっている。しかし私は浴室内をぎょっとして絶句する。泡風呂の湯の中に入っていたのは頭の耳が2つ上につんと立った大きな犬がお座りしていて、打たせ湯に浸かっていたのは馬の頭で気持ち良さそうに首に湯を当てていた。ネズミの頭をした小さな子どもがすすっと電気湯に入っていく。二人連れでいた猿たちが大きな湯船に浸かりながら話していて、私もその湯船にそっと入ってから隅っこの方で聞き耳を立ててみると
「この間あそこの温泉に行ってきて・・・」
「あら、母娘でなんていいわね、ウチは男所帯だもんで・・・」
なんて普通に私たちの使う日本語と一緒で内容もご婦人方の会話と変わらない。彼女たち顔は動物なのにそれ以外はまるで人のようだった。湯にそれぞれ動物の毛が浮かんでしまうところや時折出る獣の鳴き声のようなものを除けば。皆二足歩行して日本語を喋りお風呂を楽しんでいる。完璧なアウェー感。大自然の中のお風呂ってこんな感じなのかしらと私の頭が煮だってゆく。
「あら、お姉さん大丈夫?顔が真っ赤!湯あたりしてない?」
という言葉をかけられてハッとする。元から顔の赤いお猿のご婦人方に会釈をして私は湯から上がった。
もう今日は帰ろう、そんな気分になって浴室を後にする。火照った体に脱衣場の巨大な扇風機が心地よく、セルフサービスの冷水を飲むと少し落ち着いた。脱衣場はがらんとしていて私以外に人の姿は無かった。ロッカーの鍵を受け付けに返せば、受け付けの眼鏡をかけた女性が申し訳なさそうに、小声でこちらに話しかけた。
「あのう・・・お客様、本日は割引き行っておりまして、最初の受け付けの方で割引きされてませんでしたよね?」
「えっ・・・あ、ええ・・・そうだったんですか?」
「本当に申し訳ございません!あのこちら・・・回数券の方差し上げますので、次回もよろしかったら是非・・・」
と言われて差し出される6枚綴りの回数券を一応受け取ってでも私が気になったのはあの動物の・・・いや、それを言うのは何だか憚られた。
「今日が割引のある日って言うのは知らなかったんです」
「すみません、お伝え不足で・・・」
「いえ、あの、全然いいんです、いいんです!」
なんていうか人と会話してるというだけで自然と現実に帰ってきた気がしてくる。
外はまだ暑くて西日が照りつけていて、自転車で帰るのだから汗はかきそうだ。これは家に帰ってもう一度風呂に入る感じだなと私は決意する。特に凝った風呂じゃなくて普通の温泉の入浴剤にしよう。草津の入浴剤があったと思う。
駐車場に入ってきた車があってあの浴場に入らないいったらどう思うのだろうとか余計な事を考える。いいや、お風呂の楽しみ方は千差万別。入って来た年配のご夫婦の会話が少しだけ聞こえた。
「なに年だったっけ?」
「ひつじよひつじ」
「嘘ばっかり。とらでしょ?おれと一緒なんだから」
私は思わず自動ドアの開いた銭湯を急いで振り返った。ああそういえば私は亥年だなあなんて思いながら、家のお風呂はとても快適だった。

 

2023に送ったやつ一つめ。前後で脈絡なく唐突な展開なのが分かる・・・銭湯の件とか何故いきなりそうなるのと無理やり強引すぎて最初の方と何の繋がりあるのかっていう・・・。

言い訳だらけ

2021~去年まで『坊ちゃん文学賞』というSS募集に送りつけたりとかしてたけど、まあ特に何もなかったので一応此処で公開出来る場所になって良かったなと思ってる。

なんていうか皆本気なんだなとか思うのは検索するとサジェストに傾向とか出てきててセンター試験(言い方古い)の対策みたいじゃないかと・・・それだけガチ度が伝わってくるというか・・・。

何となく自分が意味なくヤオイ(ヤマナシ落ち意味なし)で書いているのもそうだけども、そもそも相手に読ませる文章じゃないなと。まず文章ファイルの体裁とか自由でいいとは書いてあるけど、スマホで打ってただテキストファイル化しただけで改行もしてなく文字の見にくい羅列が続くだけではそもそも論外だなあと・・・(逆に嫌がらせじゃないかと、キレられてるんじゃないかと思う)最低限でもPCのテキストエディタとか基本はワード使って文章ファイルにしてくれよって事だろうなと・・・原稿?の綺麗さは最低限でも必要な要素だよなあ・・・そういう部分の気遣いとかも問われるというか暗黙の常識は絶対あるよなあ・・・。(運営さんすみません・・・)PC使って書く程自分にも本気度もないとも言えるし(そもそもワードソフト入ってないけれど)本当に読みにくい嫌がらせファイル送りつけてるだけだな・・・。

なんていうかやっぱり社会人のルールとかそういうところから問われるものだろうなとか・・・そういう部分が皆無な自分が更に社会経験もなければ読書家でもないまして知識も乏しいのに誰かに伝えたり読ませる事の出来る文章なんて書ける訳がないよなあとか思って、ブログは自由に書いていいので此処で一応置いておけるのは良かったなと感じます。自己満足の世界だなあ・・・っていう。

色々な人のblogを見て癒やされる事もあったり新しい発見とか面白いものの紹介とか知的な旅だとかそういうインスピレーションみたいのもあって見てたけど、最近はめっきりそういうのを見る事=自発的に行動するのが億劫になってる。購読リストを開くのも億劫で、何となくこうして自分だけに一方的でとりとめのない事を書くまではいいけど、そこから先の行動まで進めなくなっている。何だか一方的というかただ自分が自分が自分がというでしゃばっていく気持ちが強くなってるのかもしれない。だけどそこに何も形がないから空回りだけして不満というかフラストレーションみたいなのが溜まっていく。

今の自分がどういうコミュニケーションというか繋がりを求めているのか自分でもよくわからない。勝手だとは思うが楽しいと思えていた事も慣れてくれば楽しいとは思えなくなってくるというか、その先のわくわくした気がなくなってきていると感じてきた。なんかものにハマった時とかって夢中になるというかああだったらこうかもしれないとか、こうだったらこうなってほしいとか願望とか邪念が生まれたりするけど、そういうのも慣れてくるというか自分の中で答えというかパターンが決まってきてしまうと新鮮さとかそういう純粋な取り込み方とかをしなくなる。それは怠慢と言うのかもしれないけど、その怠慢に陥ってる。

ただ以前の自分はああじゃないんじゃないか、いや実は間違ってるかもしれない、でも違うと迷いの中を行ったりきたりしててその自分の中の確信みたいなのが出てくるのは良い事なのではとも思うけど、それって頑なに自分の考えに固執してしまうという意の表れでもあって、年を取ってくると頭が固くなる、頑固になってくるとかいうけどまさにそういう事なのかもしれないと思うとじゃあこれは良い事ではないのではという。

誰の意見も聞き入れたくない、そういう態度に自分もなってきたのかもしれない。常に学びの姿勢は大事だと思うけれど、それは理想論というか口だけで自分がその学びを全く取り入れてない当人だったりする。

そういう見栄っ張りなだけのプライドとか変に伸びた自尊心だとかが現れ始めてきたのか、年齢を重ねてゆく上で出てくる私の老化現象なのかもしれない。何の功績もないけど認められたいという、自分のそういう部分。