ぬかるみ小路に逸れる

文章の溜まり場所として使っていこうと思います(超不定期)

おんな③

倉田と飲んだときのことを思い出していた。あれは3年前だったか、あの時は私もまだのんびりと考えていた。
倉田は昼間あんなことを言っときながらSNSにはいつも親しげにコメント残している男性がいるのが見えた。
しかもどうもプロフィールを見ると新卒2年目、私たちより年下であるらしかった。眼鏡をかけた顔はどちらかというと可愛い系で雰囲気も爽やかに見え、身体も鍛えているらしく腕や足が逞しい。

今時の子がわからないと言っておきながら倉田はいつの間にかお互い仲良く会話をしていた。オンライン上でのやり取りが現実での接点に関わってくるのか、というとそんな限りではないのかもしれないが倉田は月何度かジムに通っているので、どうもやり取りの中からそこで会っているらしかった。
「今日はありがとう」とか「今度~時に集合です」と言うのは健全な社交場での交友関係なのだろうか、と私は二人の下世話なことを勘ぐろうとしていた。
倉田がジムに通いだしたのは去年の末頃だった。年齢を考慮して健康のために始めたのだといっていたが今は別の目的にすり替わっていそうだと私は邪推した。
一緒にジムでトレーニングをする仲の男と女、怪しい。と思ったところで我ながらフィクションの見過ぎだとふっ、と自嘲した。

鍛え上げられた筋肉は抱き締められると厚みがあって暖かい。そして何より安心感があった。
お互いの熱を逃さないように逞しい身体はしっかりと私に密着している。
年下の若く満ち溢れたエネルギーが伝わってくるようだった。汗が互いの胸に滲み伝う様子は扇情的で互いの情欲が高まる。男と女は吐息を交ぜあった。
二人は身体の相性が良かった。二人にとってキスやハグと同じくらい大事な事だった。ここでは何もかも脱ぎ捨てていられた。仕事も結婚も子どものことも関係ない、ただありのままに、求めあった。

事が終わると彼はベッドサイドテーブルに置かれた眼鏡を取ってかけた、何をするのだろうと思っていると彼は同じくそこに置かれていたスマホを手にとった。
画面を見るときは極力ブルーライトを避けたいので眼鏡をかけるのだ、と言う。今時の子はやっぱり律儀だなあ、と思わず笑みがでた。

私たちのこの関係は恋人という訳ではまだ、ない。友達、トレーニング仲間、いや身体を触れ合うまでする友達とは、と自分に突っ込む。
オバ活というには私にも失礼だ、年齢はそこまで開いてないと思う。やっぱりセックスフレンドという言葉が妥当だろうか。

私はそろそろこの関係を進展させたいと思っていた。恋人、という言葉でいいのだろうけど恋人というと身構えてしまう意識もある。
ご飯を食べて、旅行に行って、いっぱい話をして好きなものを共有したり、彼の考えていることを知ってみたい、ずっと一緒にいてもいい、そんな事をするような、してもいいような関係になりたいと私は思っていた。

私はスマホをいじる彼をずっと横になりながら観察していた。
彼は手を止めスマホをテーブルの上に置き眼鏡も同じように戻すと仰向けになった。

彼は宙を見ながら今度、海でも行こうかと言った。私たちはジムかレストランかホテルぐらいでしか会うことがなかった。海に誘われるのは初めてだった。
「いいね、私も行きたいと思ってた」と言うと海だと鍛えて引き締まった肉体を見せるのに格好の場だと彼は言った。

私はやっぱりそうくるだろうなと思うと、
「デート・・・みたいな」と彼がぼそりと小声で呟いたので聞き返そうとしたがもう一度は言ってくれなかったが、それを聞いて少し嬉しくなった私がいた。その言葉が聞き間違いでなければ、胸の辺りがすっと暖かくなって解放されてくるような感じがした。



少し文を変え並べ変えしました。