ぬかるみ小路に逸れる

文章の溜まり場所として使っていこうと思います(超不定期)

おんな④

何気なくつけていたテレビドラマは年下の男と行き遅れの年上女との恋愛模様をコミカルに描いていた。年下の男に迫られる年上の女は大抵仕事の出来るが恋愛はからっきしなキャリアウーマンばかりだった。

私とは似ても似つかない。三角関係に発展しそうになりつつ、さらに彼氏に横恋慕してくる女がいたりとドタバタ劇は出ている俳優が今人気の個性派と好感度の高い女優とで視聴率もこの時期としては良いと見た。
ネットでは有り得ないと言いながら面白いと話数が終わるとすぐにトレンドに上がるくらいには今アツいドラマだった。今時の恋愛は年下男子と年上女子というロマンスなのだった。

そういえば昔、小さい頃に見たドラマは年上の男性に憧れる女の子みたいなのがあったけどあれは今じゃセクハラで訴えられるかもしれないとぼんやりと思う。
海苔つきしょうゆ煎餅を噛み締めながらマグカップにはミルク濃いめのカフェオレ、二つを手にした私の姿はいかにも駄目女っぽい。
ドラマはそろそろエンディングに差し掛かる。今週の二人はお互いの想いを再確認しあうというところで終わり、来週は『いよいよ二人が結婚をする?!』というテロップが貼られていた。

最終回が再来週というからやはり結婚が最終着地点なのだろうか。
結婚、最高位の愛の想いの形、という意味は今でも通用しているのだと思う。
彼氏と彼女から夫と妻へのランクアップはなぜかかなり大きなもののようで、恋人はその時だけの甘い記憶で夫婦は酸いも甘いも入り混じって乗り越えていくみたいな強さの認識、があるように思っていた。

でもその認識はちょっと古いと思った。苦痛も二人なら乗りこえられるだとかそんな無責任な言い分はない、結局浮気だの子どもの問題とか家の事に無関心すぎるだとか何だのと起こるわけで倉田たちのようにすぐに別れてしまう人たちだって少なくないのだ。

といって、私がそんな事を言える資格もないのだった。私は30になっても未だに男とのそういう経験がないのだ。

ドラマの主人公が私より年上で35才という設定だったとしても過去に男との経験が全くないようには作られてない、先週元カレだって出てきたのだ。結局「今」男がいなくても過去に男の一人や二人、いるのが普通なのだと突きつけられているような感じがした。

私はテレビのチャンネルを替えて少しぬるくなったカフェオレを飲む。テレビは女子アナと俳優や芸人たちのトーク番組で、テーマは恋愛とセックスの話だった。
アナウンサーたちはまだ30手前でただのおじさんから若い女への下世話なセクハラ番組のように見えたが、やっぱり何となく心地の悪さを感じたのでテレビを消してベッドに寝転がりスマホのラジオをつけた。

ラジオから流れてくる音楽はポップスの洋楽で、私は英語がわからないが結婚するなら海外の人がいいなとぼんやりと思い、ついでに「初めて」を貰ってくれる人もそれがいいなと考えていて、いつの間にか眠りについた。


朝、目が覚めて一番にスマホを見ると通知が入っていた。時刻は8時を回っている。
「人気男性アイドルグループのメンバー電撃結婚発表」とあったのでテレビをつけると朝の情報番組はその話題でほぼ一色になっていた。正直私はふーんと言った気持ちだった。

アイドルのファンはたまったものではないだろうが、世間的には結婚していた方が最終的なウケはいいと私は思っている。
男性アイドルの年は38歳でお相手は10歳下、28歳の一般人女性だというから芸能人である男性アイドルにとっては適例なのかもしれない。

ここでも私は女の30という壁を意識せざるを得なかった。朝の情報番組のコメンテーターが言う「やっぱり30になる前に結婚させたかったのでしょうね」という言葉に女の結婚というものが全て詰まっているように感じた。

30とそれ以下を分けるものは何なのだろう、出産の適齢期、子どもを見据えた事だとしても近年では30過ぎて無事に出産する人たちは普通だしそもそも子どものいない夫婦だっているのだ。
なのに世の中は30手前で結婚を焦り30を過ぎたら貰い手なしの性格に難ありの厄介者という烙印を押される。
子どもをつくることを見据えただけ、が30前に結婚を済ませなくてはならないという重圧を出すのだろうか。と考えて私は結局自分の年齢と世間体を焦っているのだ、と思った。
何か意味があって独身なのではない、ただ何となく。そうなってるだけ。

だが何となくだけで相手がいないということに周りは気を使うだろうし、そもそも私の年齢を見て既に結婚しているだろうと決めてかかる人もいるのだ。
30という年齢に囚われている、この数字が女の価値を決められるほど意味のあって尊いものなのだろうか。
だけど私が一番この数字の持つ呪縛のようなものを意識していて、こだわっているのだった。