ぬかるみ小路に逸れる

文章の溜まり場所として使っていこうと思います(超不定期)

フロート

こはちょうど探し求めていたような楽園だった小鳥や小動物たちは懐いたように従順で木々は優しくさざめき水は穏やかに透きとおっていた。視界に入った木の赤く膨らんだ果実の甘い香りが漂ってきた。この島にしようと決めた瞬間だった。
もう島を探して途方もなく海を、時には荒れる海を苦労しながらフロートをしなくて済むのだと思うと自然と涙が溢れてくるようだった。


日が幾日過ぎて客がやってきた。女2人と男3人のグループだった。彼女たちの船が浜辺に停めてあった。女のうちの一人がしきりにこの島すごく良くない?ここにしようよと言っていた。男もいいねなどと頷いている。

そんな彼女たちの前に姿を現してごめんなさい、島はすでに私のものだと伝えると男はあーやっぱそうっすよね、と半笑いになって言ったが女の方は相変わらずえーでもめっちゃここ良くない?と男に言い、さも私の話しを聞いてなかったようにいった。
ごめんなさい、と私がもう一度断ると女は今度はえーでもこんないいとこ他にないんですよーと私を見て言った。

私は知っていた、女の望みを。女は私にこの島を譲って欲しいのだ、私のじゃあ少しだけこの島に住んでみる?とかこの島の半分をあげるよとかそういう言葉を待っているのだ。全部あげるとまで言わなくてもよいのだ、彼女たちがここで暮らすとなったら遠くない内に私はこの島を手放すだろう。

何故なら私は彼女たちと生活をともにしたくはないからだ。彼女たちのような図々しい人間はその内私を侵略するだろうことは目に見えているのだ、こちらが折れるだろうと思って折ってこさせようとする人と一緒にいたいとは思えなかった。

私は断固と断ると男はあーやっぱり、っすよねーすみませんしたー、と言って男は女を宥めながら自分たちの船に帰っていったが、女の方はえーめっちゃいいのに、他にこんないいとこないよ?どうすんの?と船に乗る最後までずっと私に聞こえるように男に言っていた。



また別の日今度は小さな客がやってきた。浜辺に停めた漂着船から身をちょこっと乗り出して警戒した様子は見た目からして可愛らしかった。
こちらを見てすみません、ちょっと聞きたいのですがと尋ねる様子は礼儀正しく、好感がもてた。聞けば聞くほど彼女に興味がそそられた、お互い共通のある事柄を知っていて馬が合うとはこういうことかというぐらいに彼女には好感を持った。

島を探している最中だというので少し島に滞在していって構わないというと彼女の目が嬉しそうに輝いた。それを見て私もとても嬉しかった。もしかしたら運命の相手とは彼女かもしれないとも思ったほどに彼女との生活は楽しかった。

私よりもか弱くだが頑張っている姿には守ってあげたいと心が動かされるぐらいだった。しばらくして彼女が友達を連れてきていいですかというので私が了承すると連れてきた。これまた彼女の友達もとても可愛らしかった。

彼女たちは昔から仲が良かったらしく私と彼女との二人の島生活に急に線が引かれた。友達が特段悪いやつだとか性格が良くないわけではなかった、とても良いコだったがその友達と私は何となく決定的に合わないと思った。そして到底彼女たちの間に入れない、私が二人の間に割って入って積極的に加わっていくことの不可能さが見えた。

たぶん私はそう遠くないうちに彼女たちに島を明け渡すことになるだろうと思った。優しく弱い彼女たちが二人で幸せに暮らしていけるように。彼女たちの幸せの邪魔をしたくない、邪魔になりたくないと思った。そうなると私はやっと探し当てたこの安住の地を失うことになるのだった。また苦悩に満ちたフロートが始まってしまうのだった。

彼女たちが優しいフリをした悪魔だったとかそういう悪いものだったらいっそ良かったのかもしれなかった。

しかしこの問題はそういうコトではなくもっと複雑で私はあの女グループたちにはナメられ弱い存在と見なされながらも彼女たちのような儚く弱いものたちの前には強く写るという曖昧な存在であるということなのだった。

この性質では私はどこに行っても宙をさまよい続けるように、ふわふわと浮いたままなのだ。
私の安住と安らぎの島はどこに行っても立ち消えてしまうように彼らの漂うそのままの前に私は上にも下にもどんな姿にもなり得るのだった。
やっと手に入った島も誰かのために消えていく。
私のような人たちは一体どうすれば安住の楽園を手に入れることができるのだろう。