ぬかるみ小路に逸れる

文章の溜まり場所として使っていこうと思います(超不定期)

晩餐

空を見上げてみれば、宙に浮かぶ数々のプラントの影が私を差した。あのプラントには野菜や穀物などの植物性の食べ物から肉や魚までの動物性の食糧までが育まれていると教科書で習った。だがその食糧は直接私たちの食卓には上らなかった。一切の農薬を使わず栄養豊富な土とミネラルを沢山含んだ水と暖かい太陽の下で作られた空中プラントのそれらは私たちには食べる資格がないのだ。

食糧は常に自給自足だった、土壌は既に栄養を失って乾いていた。比較的どこでも育つと言われたじゃがいもの毒素が高くなって食卓禁止とされてから随分と久しくなった。普通のトマトがミニトマトサイズになって、きゅうりやナスは水気がなくなって干物のようだった。大根は切り干し大根のようで、そのニオイを気にしなければ食べるのに苦労はしなかった。
肉や魚はさらに食べるのが大変になった、肉はそれを生み出す家畜の食べる草や穀類が土壌の悪化による発育不良で充分な量を確保できなくなった。肉の質は悪くなって堅くて味がしないばかりか最悪の場合家畜が命を落としてしまうこともあった。腐肉を食べるのは躊躇するものだったが、どうしても肉を食べたい場合はそうした直後の肉が売られることもあった。それらは比較的値段が安価であるのもあって濃い味付けの煮込みにしたりして食べるのだった。

魚は毒素を溜め込むようになってその見た目が毒々しいまでにカラフルになった。そして毒袋と呼ばれるようになった部分を取り除かなければ食べることができなくなった。河豚の毒の取り除く様子にも似ていたが、小さい魚の場合取り除くのは大変な職人技が必要だった。そもそも魚の肉も食べられる部分は少なくなったのだ。固くなった肉筋と皮、毒素の貯まった臓器は食べる意欲も失わせた。回遊魚といった大型魚はとっくに淘汰されてしまっていて小型のトビウオのようなイワシのような魚まで水面を飛んで移動する魚が多くなった。数少なくなった漁の日に船で海に出ると海面を大量の魚が飛んで移動するのは圧巻だった。カラフルな魚が入り乱れ飛び跳ねる様子はシキと呼ばれる。

毒素のない食糧はわずかながら一応収穫があって売り出されることもあったが、基本の優先順位に乗っ取って上から3番目くらいの人たちまで供給されるのだった。余った部分があれば一般にも供給されるが何しろ売価が異常なほど高額なのだから一般庶民はもともと手が出せないのだった。
地上の人間たちは常に飢えていて、時折あのプラント群を見上げては思いを馳せた。私も幼い頃学友たちと空を見上げては「いつかあの上に行って中身を見てやるんだ」と意志を誓い合った事をよく覚えている。
あのプラントの上を覗く事はほとんど不可能だった、昔飛行機を使って到達しようとした者がいたが飛行機はいつからか高く飛べなくなっていた。重力の変動が何だと当時の科学者たちは行っていたが実際はよくわからない。

機械の部品が粗悪になったといって墜落事故のニュースも多く見かけるようになった、今は船による行き来が活発になった。船は部品が悪くなっても飛行機ほど深刻ではなくて、緊急時用にイカダを備えているから万が一の時でもどうにかなるのだ。海は表面的には昔と変わらないように見えた。

あのプラントで育てているのが食糧だと何故私たちが知っているのかいうと内通者と呼ばれる存在がいた、彼らは特別にあの中身を教えてもらっていたのだった。そもそもあのプラントを配備したのは誰かというと、よくわからない。
四角く長い妙な影が差す日が多いと思っていたらいつの間にかプラントはあって、世界中が大騒ぎになっていた。

ある有名な思想家はあのプラントは現代人が失った神が創造したと言ったし、科学者は宇宙人がひそかに設けていたものじゃないかと言った。結局誰が何のために用意したのか真相はわからなかったが、その論争の後一部の人たちの中にあのプラントの中身を知る人たちが出てきた。確認しようのない中身をなぜ知っているのか、プラントを作った超本人でないのか、彼らが言っていることはでたらめではないのか、かなりの憶測や批判はあったが彼らはそれから起こった災害やスキャンダル、その細かい内容を悉くピタリと当てた。預言者とも言われたその人たちは自らを代理人と名乗り人々の関心を引き留めると、あのプラントでは新鮮な食糧が育てられていると言った。彼らがその予言を言い当てた時、地上の毒は既に蔓延していてもう取り返しのつかない状態だった。

彼らがもう少し早くに地上の毒を予言してくれていればこんなことにはなっていなかったとぶつけようの無い思いを嘆く人々や彼らに怒りをぶつける人々を預言者たちは見かねたのか、彼らは姿を消していた。その後も預言者を名乗る人たちが現れたが最初の彼らほどの力はなかったから予言はほとんど当てにはならなかった。

私は実はあの空中プラントは神様と呼ばれる宇宙人が創造したものだと思っている。預言者と言われた人たちがあの空中プラントを作ったのだという学者もいたが私は彼ら預言者たちと呼ばれた存在はその宇宙人とコンタクトを取ったただの人類、預言者たちはもともと普通の人たちであると考えている。

預言者と呼ばれるようになった人たちは地球人を超越した力をそれから与えられたのだ。一般人宇宙人たちと気付かずうちに接触をしていてチップのようなものを知らないうちに身体に埋め込まれた、そうして宇宙人たちと意識を同調させられたのだ。人と人外が一体になることで彼等たちの持つ知識にアクセスできていたのではないか、預言者たちは私たちとは違う遠い存在になった、彼らは見かけこそ我々と変わらないがその思考や感覚は宇宙人とそのものなってしまったのではないか。

だがあのプラントを宇宙人たちが何の目的があって造ったのかは不思議なまま未解明の謎だった。あのプラントは我々のような人類に向けて造られたものでないことは承知の通りだが、ではなぜ我々の住む地球で造ったのか、誰に向けて造ったものなのか。
毒のない食糧を造っていることから食物を摂取する存在であることは間違いないだろうと思うのだが、仮に宇宙人たちにとっての神、つまり全宇宙の創造主への奉仕だとして創造主は食事をするのだろうか。だとしたら創造主は存外グルメらしい、美味しい食べ物が食べたいのだ。

しかし私たちは、その全ての創造主に対して何も献上することのできない存在であるのだ。私たちの上に神さま=宇宙人がいてその上にさらに創造主がいる。私たちは創造主からしてみれば塵のようなものなのだ。




適当に書いたもの続きが思いつかない。