ぬかるみ小路に逸れる

文章の溜まり場所として使っていこうと思います(超不定期)

お題「新しい生活と家族」

「No title」

 

「今日はブリザードが午後から吹き荒れる模様です、外へ出るのは午前の内に済ませておいたほうがよいでしょう」

スピーカーから流れるのは気象予報の音声だ。

「・・・今日もまたお天気悪いのね」

「エリカ、何か外に用事はある?あるのなら今の内に済ませておきたいのだけど」
二人の女性が会話をしている、ブリザードは午後からという予報なのに分厚い窓の外を見ると外はもう薄暗く時々大きな雪の塊が吹き荒れている様子が見られる。

「最高気温はー27℃、最低気温はー33℃でしょう」続けてスピーカーから流れるのは気温のお知らせである。

「気温はあまり下がらないのね」

「ブリザードの日は気温の低さよりも風が強くて嫌なのよ、雪が身体に勢いよくあたる感触は何とも言えなくて・・・あまり慣れないわね。」と身ぶり手ぶりで言うアリサにエリカは自然と笑顔になる。

「アリサがそう言うのは面白いわね、慣れてるものだと思ったのに」

「まあ・・・慣れるも何も、ずっと外に出続けていればそれが当たり前にはなるから」「あなたが入れば心強いわね」とにこやかに笑うエリカにアリサはそういうのじゃないけどと照れ隠しをするみたいに後ろで手を組んだ。

「それで、用事はある?エリカ」

「今日はないわ、食べ物なら前から干していた果実に培養所で採れた野菜もオーツもあるわ。肉を食べたいのなら・・・ないけど。」

「じゃあ今日はそれで充分ね。明日、肉や魚を貰いに行ってくるわね」

エリカとアリサが住んでいるポッドと呼ばれる家では穀物や果実が栽培されていた。このポッドというのは堅牢な厚い素材で出来たドーム状の家々のことで、中は常に人が居住可能な適温に設定されている。そのポッドは複数寄り集まって繋がっており、居住用の他に食物栽培や生物培養に特化した部屋があった。それぞれのポッドで全てを生成できるわけではないので造られてないものは物々交換制で他のポッドに貰いに行かなければならないのだった。

午後、二人は食卓を囲みながらゆっくりと食物をつまむ。吹き荒れるという予報のブリザードは家の中にいても時折轟音が鳴り響いているのが聞こえた。
「アリサ、寒くはない?」

「私は大丈夫よ。エリカは?」

「ええ・・・少し寒いわね。隙間風でもあるのかしら」暖かい室内の温度計は常に24℃に保たれているが、建物が老朽化してきているのかブリザードの威力が年々増してきているのか、この建物はエリカの祖父母の代からあるから古いものであることは間違いのなかった。

「ブリザードは明け方に止みました。今日の天気は日中は晴れ、最高気温ー41℃、最低気温-55℃でしょう」
昨日の荒天から明け今日は晴れ、だが晴れといっても太陽が直接見えるような晴れではなくて分厚い雲の途切れの薄曇りがうっすらと明るいような、かつては曇りと言われた天気が今の晴れになった。

「じゃあ、今日は肉と魚をもらってくるわね」アリサは暖房着に身を包む。頭はすっぽりとマスク付きのフードを被るような形、目元にはゴーグルをつけて。分厚い服に手袋は宇宙服のようだった。外は極寒の寒さだ、肌を露出すればたちまち凍りつく、瞳も耳も指も引きちぎられるだろう。エリカは心配そうな面もちでアリサを見る。

「なんでそんな顔をするのよ?」

「・・・あなたが心配なのよアリサ」

「今までだって普通に行ってたのだし、大丈夫。心配はしないで?」アリサは揚々と答える。

「・・・それにわたしは本来この為にいるのに?」というアリサにエリカは「・・・そうね、ごめんなさい」と俯いて謝った。
外はブリザードほどではないが風は時折吹き荒れた。ここから2ndポッドまで8Km、肉と魚の栽培ポッドはそこから約3Km。次のポッドに貯えられていればいいのだが、トータル11kmの移動は覚悟しなくてはならない。
「といっても徒歩で移動するわけじゃないのよね」といってシェルターを開けるとスノーモービル型のライドマシン。寒冷地用に特化されたエンジンを掛けアリサはモービルに跨がると2ndポッドを目指して駆けていった。
モービルの風に雪が舞う、颯爽と雪原を走る。一面はどんよりとしていて白く、目印らしい目印も雪の塊くらいしかないのに行き先がわかるのはかつてポッド間と地下内に埋めこまれたGPSとが連携するためだ。
この終末の冬と呼ばれる異常気象が突如始まったのは西暦2080年のことだった。

『極端な寒冷化が起きる、人類は新たな危機に直面する』温暖化が叫ばれていたのはもう昔の話だ、今となっては人間が屋外で活動出来ていたということが何とも夢物語のような話だった。人間は一生の生活を温暖なポッド内で過ごす事を余儀なくされた。エリカもその一人だ、彼女は生まれてから一度も外に出たことがなかった。

 

「おばあ様の昔話し、おばあ様の小さい頃はとっても暑かったんですって。夏があって、家の中でも冷房を入れてないと死んでしまうくらいだった・・・って」
テレビの画面に映るのは常夏の島と言われた太平洋のリゾート地。アーカイブスに残る映像はいつでも季節があった頃の様子を見られた、またどこかのポッド内には擬似的に夏を体感できる場所もあるという。
「夏が終わると秋になって、冬になるのだけど、雪が降らない場所もあって・・・おばあ様たちはわざわざ雪が降る地域に旅行に行ったんだって?面白いわよね、わざわざ見に行くなんて」
エリカが楽しそうに彼女の母、祖母から繰り返された話を喋っているのをアリサは微笑ましく思った。
「エリカは外に出てみたい?」
とアリサは聞いたがエリカは首をうーんと傾げて悩んだ。
「わからないわ、だって外は雪ばかりで・・・何もないし、寒いもの」

 

突風のような向かい風が吹いた。モービルの握り手を持つ指が分厚い手袋の上からでも少しかじかんだように冷たい。寒冷化は以前よりも増してきているのか、それとも私たちが寒さに弱くなってきているのか。いずれにせよ外での活動は以前より満足に行かなくなってきているのかもしれない。2ndポッドの家屋が見えてきた、少し休憩を挟もうと立ち寄る。
ポッドを訪ねると入り口は堅く閉ざされていた。仕方なくインターホン越しに
「肉や魚はないかしら、貰いに来たのだけど。」
「申し訳ありませんが、ありません。栽培ポッドまで行ってください。そこなら充分にあるでしょう」と応えがあった。
実は少しだけ暖を取りたかったのだけど門前払いされては仕方がない。そのまま栽培ポッドまでモービルを走らせることになった。穀物や果実は住居用ポッドで充分に栽培されているから栽培ポッドは主に肉や魚といった生き物の栽培に特化したポッドであった。
ポッドは内部こそは半地下にあるがその入り口は地上にある。ポッドの地下同士を繋げれば人間は楽に移動できたはずなのにそれはしようとしなかった、出来なかった。その代わりにアリサたちがいた。
栽培ポッドから帰る途中、エリカの住むポッドの方向に雷光が見えた。今日の天気は晴れだといっていたはずなのにブリザードの予兆だ。

「(全く当てにならない天気ね・・・)」
相変わらずよく外す天気予報だとアリサは思ってライドする。

稲光が鳴って悪天候がやってきた。窓の外はずどんとした曇り空で、ブリザードが舞う。中にいても寒気が伝わってくるようだった。アリサが出て行ってから3時間、だいたいいつも栽培ポッドに出た時はこのぐらいかかるものだがエリカはそわそわと落ち着かなかった。
「(アリサが無事でいてくれるとよいけれど・・・)」
いつもならこんな不安になることはないのに、最近はアリサが明日にでも自分の前からいなくなってしまうんじゃないかという恐怖をエリカは持つようになっていた。独り部屋の中に取り残されてしまったような感覚だった。

 

扉が開く音がした。
「エリカ、ただいま。今帰ったわよ」
食糧が入った袋を持ったアリサ、防寒具はところどころに湿っている、ブリザードの雪の跡が染み付いている。
「アリサ!」
といってエリカはアリサに抱き付いた。こんなことはとても久しぶりのことで、アリサは動揺した。
「ちょっと、いったいどうしたっていうのよ?」
「・・・あなたがもし戻らなかったらどうしようと考えてしまったの、無事で良かった・・・」
と弱気に言うエリカにアリサは困った。
「・・・あなた、私より若いくせにどうしてそんなお婆ちゃんみたいなこと言うのよ」
「・・・私はもうみての通り年寄りなのよ?人間は年を取るのが早いの」
アリサはエリカの孫のようにも見える若々しい姿だった。二人の外見上は老婆と若い女性そのものだった。

アリサはエリカが生まれる前からいた。いつもいっしょにいてエリカの祖母や母がいなくなっても、ずっとそばにいた。アリサが人間の代わりに屋外活動をする汎用ロボット─Assistance Living Satisfied(通称:アリサ)─
であってもエリカにとってアリサは本当の姉のようでパートナーでいて大切な家族だった。

「おかしなものね、あなたがまだ幼い頃から私は見てきたのに」アリサはエリカの小さい頃からずっと成長を見守ってきた。
「・・・あなたの方がすごくお姉さんだったのにね」
アリサの外見はずっと若い女性のままだった。人間であるエリカは年を取り、老いることのないロボットであるアリサの見た目を超えて、老いていく。
「でも、私の方が中身はあなたより年上なのよ?」
「ええ・・・それはそうよ。あなたは何でも知ってる、母の事もおばあ様のこと、昔のことも・・・」
「それは私のデータベースに記録されてるだけよ。ロボットだから」
と言うひけらかして言うアリサにエリカはクスッと笑う。
「ねえ、昔みたいにお話してくれないかしら?」
「おとぎ話ってこと?なんだか湿っぽいわエリカ」
「湿っぽいだなんて言わないで、聞かせてほしいの?」
「・・・仕方ないわね」
といってアリサはエリカの小さい頃によく聞かせた遠い昔の砂漠の話を語るのだ。

エリカは自分に残された時間がもう少ないことを知っている。明日でも明後日でもアリサがいつ自分の目の前から消えていてもおかしくはなかった。エリカはベッドに仰向けになったまま呼びかける。
「・・・ねえ、アリサ。頼み事をしてもよいかしら?」
「いいけど、何?」
彼女はベッド横のテーブルを指して言う。
「そこに、手紙があるでしょう?それをすぐに届けて欲しいの」
「わかったわ」
彼女は誰に、とは言わなかった。手紙は封がされていていつでも差し出せる状態だった。アリサの柔らかく温かな手がエリカの冷たくなった頭や顔に触れるたびエリカは安らぎと深い安心を感じた。これなら眠る事も怖くないと思えた。

夜のブリザードが吹き荒れる中、彼女は深い眠りについた。

 

「アリサ、見て!手紙が来たの!」と興奮気味に話す彼女を見てアリサは思わず口が綻んだ。「差出人は・・・・・・何て書いてあるのか読めないわ」と唸る彼女の横にしゃがんでアリサは手紙の字を読み上げる。

「エリカと書いてあるのよ」

「エリカ?」と彼女は目を見開いて驚いたようにアリサを見上げる。

エリカは自分の子どもを残さなかった。彼女はアリサとともに暮らしていくことを望んだのだ。人が個人の子孫を残さないとしてもその人が生きてきた証を語り継ぐ事は出来る。それがアリサの役目でもある。

エリカは手紙を書いた。それは新しい人類の為に、まだ見ぬ子どもたちの為に。

「あなたと同じ名前の、あなたの・・・遠いおばあ様よ」アリサはそう告げると幼いエリカは首を傾げた。

 

 

最初はショートショートに応募しようと思って書いたがまとまらないので応募しなかった。テーマは「新しい生活と家族」

ラストは投げた。どう足掻いても着地点がない。到底テーマにある普通の家族と暮らしにはならなかったのでここに置いておく。(スマホから書いたので全体が不自然で見づらい)